プラズマ中の波動

ただし、外部磁場が無く、温度0の場合

プラズマ中の波動を数式で表す

 では、早速、プラズマ中を伝播する波動について検討する。
 まず、ここでは外部磁場が無くプラズマの温度が0で、さらに、簡単のため物理量の波動の成分が定常成分と比べて非常に小さい場合、を仮定する。
 プラズマ中の波動を求めるには、以下の方程式を用いる。




ここで、は、それぞれ、電場ベクトル磁束密度ベクトルをあらわし、は、それぞれ、荷電粒子sの電流密度ベクトル電荷量体積密度速度ベクトル質量である。第1式と第2式はマックスウェル方程式第3式は電流密度を表す式第4式は運動方程式である。

 以上の3つ仮定のもと、これらの方程式を解くことによりプラズマ中を角周波数ω、波数kでz軸方向に伝播する波動電場の数式による表現が得られる(導出法はこちらのPDFファイルを参考にしてください)。




ただし、

ここで、はそれぞれ、電場ベクトルのx, y, z成分である。は、カッコ内の複素数の実部を取ることを意味している。
は、
と定義される。また、は、
と定義される(の定常成分)。すなわち、荷電粒子sのプラズマ周波数である。
 ここでは、は、任意の値を取り得る

 というのが入っていて、なんだか訳のわからなくなっているかもしれないので、別の表現を用いると…、
 のとき、すなわち、のときは、




ただし、
 のとき、すなわち、のときは、



ただし、
である。
 このように、のときは、コサインの中にという部分があるからいかにも波動っぽい表示となっている。一方、のときは、波らしくなく単に振動のような形をしている。このような状態の波をエバネッセント波という。


アプレットでシミュレーション

では、早速JAVAアプレットで、プラズマ中の波動のシミュレーションを見てみよう。

アプレットを開く

 以下のような画面が表示されるはず。

左カンバスは、プラズマ中の波動をシミュレーションし、右カンバスは比較のため真空中の波動をシミュレーションしている。
このシミュレーションでは、左右カンバスとも任意定数を以下のとおりとしている。

 つまり、x軸(赤い軸)方向に振動する電場としている(参考:波動表示カンバスにおける座標軸


エバネッセント波

 真空中の波動をあらわす右カンバスはz軸(青い軸)方向に進行している波動であることは容易に分かると思うが(参考:波動表示カンバスにおける座標軸、プラズマ中の波動を表している左カンバスでは、波が進行しているというより、むしろzが大きくなるほど振幅が小さくなる振動をしていことが分かるだろう。このような波をエバネッセント波という。

 エバネッセント波が発生する理由は、プラズマ中の荷電粒子である電子やイオンが電場による電気力を受け、その電場を遮蔽するように運動するため、波動の伝播が妨げられるからである。なお、電子はイオンと比べて身軽なため、遮蔽作用の大部分を担っている

 左カンバスと、右カンバスの"S"と書いてあるチェックボックスにチェックを入れて、ポインチングベクトルを表示させると(参考:表示させる物理量の選択

 左カンバスではポインチングベクトル(緑色のベクトル)が伸縮しながらz軸正の方向と負の方向に入れ替わっていることがわかると思う。これに対し、右カンバスではポインチングベクトルが伸縮しながらz軸正の方向をずっと向いていることが分かると思う。1周期で平均するとエバネッセント波のポインチングベクトルは0ベクトルである。すなわち、エバネッセント波は1周期トータルでのエネルギーの流れはない


密度、周波数を変える

 で、プラズマ中で波動が伝播できるようにするためには、周波数を高くしてやるか密度を低くしてやればよい
 実際にスクロールバーを動かして、周波数を高くするか(参考:周波数の調整、密度を低くすることにより(参考:密度を変える、左カンバスの波動がエバネッセント波から、z軸の正方向に伝播する波動に変化することが分かるだろう。なお、前セクションでも述べたが、周波数を大きく変えて、波長が長すぎ(短すぎ)た場合や、波動の変化具合早くなりすぎ(遅くなりすぎ)た場合は、"Space Scale"、"Time Scale"と書いてあるとこの横にある"Auto Adjust"と書かれたボタンを押してください(参考:シミュレーションが早過ぎる場合や、遅すぎる場合は…、波長が長過ぎる場合や、短過ぎる場合は…、

特徴をまとめると…

 磁場の無い冷たいプラズマ中の波動の特徴を一言で言えば、「プラズマ中では周波数が高くないと波動は伝播しない」。プラズマ物理の教科書に良く書かれている事であるが、人工衛星と通信するためには、上空の電離層を超えて伝播させるため、周波数は高くないといけない。逆に、地球の裏側と通信するためには、電離層での反射を利用して、周波数は低くないといけない。そういう事情がお分かりいただけただろうか。


電子・イオンの動きを見る

 プラズマ中では荷電粒子である電子とイオンが存在するが、波動電場が存在するため、それぞれ電場による力を受けて運動しているはずである。  このアプレットでは、電子やイオンの動きを見ることができる。チェックボックスの"Ele."、"Ion"というチェックボックスにチェックを入れると(参考:表示させる物理量の選択、それぞれ、電子、イオンの軌道がカンバス上に表示される。なお、ここでは古典力学で説明しているので、電子・イオンを粒子として扱っている。ただし、右カンバスは真空中のシミュレーションであるので、チェックを入れてもカンバス上に表示されない。もし、電子、イオンのどちらも動いていない場合や、左カンバスで電子、イオンどちらも表示されない場合は、軌道が小さすぎるか、大きすぎてスケールアウトしているため、コントロールパネル部の"Normalize"というボタンを押してください(参考:ベクトルや軌道を見やすい大きさにする。以下のような画面が表示されるはず。

赤い点が電子を、青い点がイオンを表している。これらの軌道は、運動方程式、
を解いて求めている。

 電子の軌道と、イオンの軌道は、同じ空間スケールで表示している。これを見れば、電子に比してイオンはほとんど静止していることが分かるだろう。理由はもちろん、イオンの質量が電子の質量より遥かに大きいからである

 さらに、電子とイオンの軌道を表示させた状態で、周波数を高くしてみる(参考:周波数の調整。すると、軌道の振幅がどんどん小さくなることが分かるだろう。逆に、周波数を低くすると、軌道の振幅がどんどん大きくなって電子軌道はスケールアウトし、さらに周波数を下げると、イオンも目に見えて大きく動き始める。このシミュレーションでは、波動電場を周波数に関係なく一定としている。これは、周波数が低い場合は、電子やイオンが電場による力を受けて運動を行うが、周波数が高くなると、自身の慣性により運動が波動電場の変化に追いつけなくなっていることをあらわしている。


電流と電気変位ベクトル

 電子の運動と、イオンの運動が一致していないと、電流が発生する。このアプレットでは、電流ベクトルの表示、さらに、電気変位ベクトルの表示を可能としている。

 左カンバスにおいて、波動カンバス下の"J"と書かれたチェックボックスにチェックを入れると(参考:表示させる物理量の選択電流密度ベクトルがオレンジ色で表示される
 また、電子の軌道も合わせて表示しておくと分かりやすいだろう。ここでいう電流密度ベクトルは、電子による電流密度ベクトルと、イオンによる電流密度ベクトルの和のことである。
 電子の運動に合わせて、電流密度ベクトルが変化していることを確認してほしい。

 次に、電気変位ベクトルを見てみる。
 電気変位ベクトルは、以下の式で定義される。

なお、誘電率テンソルという。
 左カンバスにおいて、波動カンバス下の"D"と書かれたチェックボックスにチェックを入れると(参考:表示させる物理量の選択電気変位ベクトルが黄色で表示されるので、確認されたい。
 波動電場ベクトルと、電気変位ベクトルは、同じ空間スケールで表示しているので、周波数に変えてみて、互いのベクトルの大きさや向きを見比べてほしい。


周波数と波数、密度と屈折率との関係

 あくまで簡単にですが、このアプレットでは、周波数と波数の関係をグラフに表示している。さらに、密度と波の屈折率との関係のグラフも表示可能としている。
 たとえば、アプレット右下にあるチョイスにおいて、"Log-omega vs. Log-k"を選択すると(参考:周波数―波数のグラフを表示(対数目盛)、両カンバス下部に、横軸:角周波数(対数目盛)―縦軸:波数(対数目盛)のグラフが表示される。また、赤字の"n2=...."とは、そのときの屈折率の二乗の値を表示している。
 なお、屈折率は、

で定義される。なお、波数が、0になることを遮断(カットオフ)という

 さらに、上記チョイスにおいて"k vs. omega"を選択すると(参考:波数―周波数のグラフを表示(線形目盛)横軸:波数(線形目盛)―縦軸:角周波数(線形目盛)のグラフが表示される。
 なお、現在の波数と角周波数の示す点(グラフ上の赤い点)と原点を結ぶ直線の傾きは、位相速度を表している


 さらに、上記チョイスにおいて"Log-n vs. Log-N"を選択すると(参考:密度―屈折率のグラフを表示横軸:電子密度(対数目盛)―縦軸:屈折率(対数目盛)のグラフが表示される。


いろんなバリエーション

 前節の真空中の電磁波と同様、は、任意の値を取り得る。そこで、前節と同様にをいろいろ変えたシミュレーションを紹介する。

その1

アプレット1
 このアプレットは、左カンバスが
,
の場合、すなわち、右回り円偏波をシミュレーションしており、右カンバスが
,
の場合、すなわち、左回り円偏波ををシミュレーションしている。

 なお、ここで紹介するアプレットでは、左右両カンバスにおいて真空中⇔プラズマ中の切り替え可能なように設定してあるので、電子密度のコントロールのほか(参考:密度を変える真空中⇔プラズマ中の切り替え(参考:真空中⇔プラズマ中の切り替えも試してみて欲しい。

 また、コピーボタンを押すことにより、左右どちらか一方のカンバスで設定した密度を、他方のカンバスの密度に設定することができます(参考:各プラズマパラメータのコピー

その2

アプレット2
 このアプレットは、左カンバスが
の場合、すなわち、波動電場がx軸方向のみに変位する直線偏波をシミュレーションしており、右カンバスが
の場合、すなわち、波動電場がy軸方向のみに変位する直線偏波ををシミュレーションしている。

その3

アプレット3
 このアプレットは、左カンバスが
,
の場合、すなわち、だ円偏波をシミュレーションしており、右カンバスが
,
の場合、すなわち、円偏波ををシミュレーションしている。

その4

アプレット4
 このアプレットは、左カンバスが
,
の場合をシミュレーションしている。これは、x軸からy軸方向へ斜め135度傾いただ円偏波のシミュレーションである。また、右カンバスが
,
の場合をシミュレーションしている。これは、x軸からy軸方向へ斜め45度傾いた直線偏波のシミュレーションである。

 さて、次のセクションでは外部磁場がある場合のプラズマ波動について解説していきます。


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